貸倒損失について
最終更新日:2025年9月29日
カテゴリー:税制度
今回は、会計基準と税法の両面からどのような場面で貸倒損失を計上するのか、あるいは計上できるのかを確認するとともに、
貸倒損失についての一般的な基準である法人税基本通達をメインにご説明をしていきたいと思います。
なお、前回でご紹介した用語・基準等の正式名称については、前回のコラムをご参照頂き、今回のコラムでは最初から省略をさせて頂いておりますことを予めご了承ください。
目次
- 会計基準に基づく貸倒損失
- 税法に基づく貸倒損失
- その他論点
- 法人税基本通達逐条解説
- 国税庁の質疑応答事例
- 国税庁の文書回答
- 判例、裁決 等
- 更⽣計画認可の決定⼜は再⽣計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の⾦額
- 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の⾦額
-
法令の規定による整理⼿続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の⾦額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ ⾏政機関⼜は⾦融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの - 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その⾦銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、 その債務者に対し書⾯により明らかにされた債務免除額
- 1
- 2
1.会社法の貸倒引当金
会社計算規則6条2項において、負債には、退職給付引当金その他の将来の特定の費用または損失の発生に備えて、 その合理的な見積額のうち当該事業年度の負担に属する金額を費用または損失として計上すべき引当金につき、 期末日の時価または適正な価格を付すことができる旨の規定があるものの、その定義、要件または範囲については特段の規定がないため、 「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」とする会社法431条の規定、 または会社計算規則の「用語の解釈及び規定の適用に関しては、 一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならない」(会社計算規則3条)とする規定に従うことになります。
従って、会社法上の引当金の計上については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づく取扱いがなされ、貸倒引当金の計上に際しては、 一般的な法人については、中小企業団体、金融関係団体、企業会計基準委員会及び学識経験者が主体となって設置された「中小企業の会計に関する検討会」が、 中小企業庁、金融庁及び法務省の協力のもと、作成した「中小企業の会計に関する基本要領(以降、「基本要領」と呼ぶ。)」、又は日本税理士会連合会、 日本公認会計士協会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会の4団体が、法務省、金融庁及び中小企業庁の協力のもと、 中小企業が計算関係書類を作成するに当たって拠るべき指針を明確化するために作成した「中小企業の会計に関する指針」(以降、「指針」と呼ぶ。)、 そして、会計監査人による会計監査が必要となる規模の法人については、日本の会計基準を設定する民間組織である企業会計基準委員会(以降、「ASBJ」と呼ぶ。)により取り纏められた 「金融商品に関する会計基準(以降、「金融商品会計基準」と呼ぶ。)」及び「金融商品に関する実務指針」(以降、「金融商品実務指針」と呼ぶ。) それぞれに定められている貸倒引当金の規定に従うことになります。
2.税法に基づく貸倒損失
税務上の貸倒損失に係る根拠法令等としては、法人税法22条3項3号であり、法人の有する金銭債権が回収不能になったことによる損失の額は、 各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入することができます。
この点、金銭債権が回収不能となったかどうかは、金銭債権の一部が法的に消滅した場合は別として、原則として金銭債権の全額について判定することとなるため、 貸倒れとして認めるには、債務者の支払能力等の実情により個別的に判定をする必要があります。
しかし、全額回収不能かどうかの事実認定は、実務上もなかなか困難であることから、金銭債権の一部の法的な消滅の場合も含め、
法人税基本通達「第9章 その他の損金 第6節 貸倒損失 第1款 金銭債権の貸倒れ」において、
(a) 9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)、(b) 9-6-2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)、(c) 9-6-3(一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)により、
貸倒れについての判定に関する一般的な基準を定めています。
但し、上記の基本通達でも貸倒れの事実認定は難しいことから、実務上は以下の資料等も参考にした上で多角的な検討が必要となります。
それでは、順に各通達を確認していきたいと思います。
(a) 9-6-1(⾦銭債権の全部⼜は⼀部の切捨てをした場合の貸倒れ)(以降、「法基通9-6-1」と呼ぶ。)
法⼈の有する⾦銭債権について次に掲げる事実が発⽣した場合には、その⾦銭債権の額のうち次に掲げる⾦額は、 その事実の発⽣した⽇の属する事業年度において貸倒れとして損⾦の額に算⼊する。
まず法基通9-6-1ですが、本通達は法律上の貸倒れとして、①金銭債権が会社更生法、民事再生法、会社法上の特別清算等の手続に基づき、
その金銭債権の全部又は一部について切り捨てられることとなった場合、又は②債権放棄の手続が行われた場合(寄附に該当する場合を除きます。)に、
法人が損金経理をしているかどうかを問わずに貸倒損失として、その事実の発生した日に属する事業年度においてその消滅した部分の金額が損金の額に算入されます。
従って、法人が損金経理を失念していたような場合であっても、別表上の申告調整により損金算入が可能となります。
この点、本通達による貸倒損失については、金銭債権の消滅が重要であり、(1)から(4)までに掲げる債権消滅事実に基づき、
当該金銭債権の資産価値が消滅したことをもって、その時点において貸倒損失が損金の額に算入されることになります。
各通達の具体的な内容について、確認をしていきます。
本通達(1)では、会社更生法における更生計画の認可決定(会社更生法199条)又は民事再生法における再生計画の認可決定(民事再生法174条)による金銭債権の切捨てが行われた場合をいい、 本通達(2)の特別清算とは、会社法の規定に基づく倒産手続であり、清算の遂行に著しい支障をきたすべき事情があること、又は債務超過の疑いがあることの事由があるときに、 債権者、清算人、監査役又は株主の申立てにより、裁判所が特別清算命令を発して、裁判所の監督の下に、集団的に債務整理を行っていく特別な清算手続であり、 いずれも法律を根拠に、切捨てられることになった金銭債権の額が、消滅することになります。
また本通達(3)では、(1)及び(2)のように法律の規定に基づいて裁判所の関与の下での債権の切捨となる法的整理とは異なり、裁判所を利用せず、
債権者集会や行政機関又は金融機関等の関係者間の協議決定による債権の切捨てであり、私的整理とも呼ばれています。
具体的には、事業再生ADR等に基づき、各関係者間で協議決定した合理的な基準により切捨てられることとなった金銭債権の額については、
法律的に消滅するとして、損金の額に算入することが認められます。
最後に本通達(4)ですが、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、あらゆる回収努力をしたものの、その金銭債権の弁済を受けることができず、 担保又は保証による回収見込みもない場合、債務者に対いて書面により債務免除(債権放棄)の事実を明確にした場合には、金銭債権の額は法律的に消滅するとして、 損金の額に算入することが認められているものの、法人税基本通達逐条解説には、債務者に対し債務の免除をした場合であっても、 その債務の免除がその債務者に対する贈与と認められるものであるときは、その免除額の単純な損金算入は認められず、 別途、寄附金の損金算入限度減額を計算するとされておりますので、書面による債務免除をすれば無条件に貸倒損失が認められる訳ではありません。
このように、本通達(4)については、上記(1)から(3)の通達と異なり、債権者側からの貸倒損失の計上への行動となりますので、 税務リスクに備えるため、債務者の資産状況、支払能力等の状況証拠の積み上げ、回収を断念せざるを得ない合理的な判断等、関連する疎明債務者の資産状況、 支払能力等の状況証拠を積み上げ等、関連する疎明資料の作成・保存が重要となります。
この点、債務超過状態の「相当期間」及び「書面による債務免除の事実」については、国税庁の質疑応答事例により、
前者については、債権者が債務者の経営状態をみて回収不能かどうかを判断するために必要な合理的な期間をいい、形式的に何年ということではなく、
個別事情に応じその期間は異なるとされ、後者については、債務者に対する債務免除の事実は書面により明らかにされていれば足り、
この場合、必ずしも公正証書等の公証力のある書面によることは要しないが、書面の交付の事実を明らかにするためには、債務者から受領書を受け取るか、
内容証明郵便等により交付することが望ましいと解説されています。
ただし、「相当期間」については、ゴルフ場の建設事例とはなりますが、横浜地裁による平成5年4月28日判決により、実務上、通常3年ないし5年が一つの目安になるのではないかと思います。
また、「弁済を受けることができないと認められる場合」については、宇都宮地裁の判決(貸倒損失の認定基準/法基通9-6-1の債権回収可能性、平成15年5月29日判決)により、 債務者において、破産、民事再生、強制執行等の手続を受け、あるいは、事業閉鎖、死亡、行方不明、刑の執行等により、債務超過の状態が相当の期間継続しながら、 他からの融資を受ける見込みのなく、事業の再興が望めない場合はもとより、債務者にそのような事由がなくとも、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、 資産及び信用の状況、事業の状況、債権者による回収努力等の諸事情に照らして当該債権が回収不能であることが客観的に明らかである場合をいうと解するのが相当であるとの判旨がなされています。
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