貸倒引当金について
最終更新日:2025年9月12日
カテゴリー:税制度
引当金という表示科目が制度として定められたのは、 一般的な株式会社を対象として1934年(昭和9年)に商工省(現在の経済産業省の前身)から公表された「財務諸表準則」が最初の会計基準のようで、 当時の引当勘定についても特定の損失に対する準備として、その負担が当該会計年度に属し、 その金額を見積によって定めるとされており、特定の資産の減価に係る引当勘定の例示として、 今回ご説明していく「貸倒引当金」が挙げられております。
その後、引当金は実務として定着し、1982年に企業会計審議会により、 商法(現、会社法)等の改正を機会とした企業会計原則の一部修正により、 現在の引当金の認識及び測定基準である「〔注18〕引当金について」(いわゆる、注解18であり、以降は「注解18」と呼ぶ。)が企業会計原則として制定されました。注解18では、引当金をいつ、どのように計上するかを定めており、以下の4要件を満たす場合には会計上、引当金を計上する必要があります。
- 将来の特定の費用または損失であること
- その発生が当期以前の事象に起因するものであること
- 発生の可能性が高いこと
- 金額が合理的に見積可能なこと
注解18の要件のとおり、引当金は、適正な期間損益計算の観点から、費用または損失が見越計上されることにより生じるもの、 すなわち、将来事象に係る見積りであり、費用または損失が計上される場合の相手勘定として貸借対照表に計上される貸方の勘定科目です。
このように、引当金については、企業会計原則注解において一定の定めがあるものの、 現在に至るまで包括的な会計基準は設定されておらず、制度上明確な定義や範囲についても示されてはいません。
一方、今回ご説明していく貸倒引当金については、日本の会社法や税法等でその取扱いが定められています。 なお貸倒引当金については、日本で任意適用が認められているIFRS(国際会計基準)においても、 その基準がありますので、最後に少し触れていこうと思います。
目次
1.会社法の貸倒引当金
会社計算規則6条2項において、負債には、退職給付引当金その他の将来の特定の費用または損失の発生に備えて、 その合理的な見積額のうち当該事業年度の負担に属する金額を費用または損失として計上すべき引当金につき、 期末日の時価または適正な価格を付すことができる旨の規定があるものの、その定義、要件または範囲については特段の規定がないため、 「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」とする会社法431条の規定、 または会社計算規則の「用語の解釈及び規定の適用に関しては、 一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならない」(会社計算規則3条)とする規定に従うことになります。
従って、会社法上の引当金の計上については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づく取扱いがなされ、貸倒引当金の計上に際しては、 一般的な法人については、中小企業団体、金融関係団体、企業会計基準委員会及び学識経験者が主体となって設置された「中小企業の会計に関する検討会」が、 中小企業庁、金融庁及び法務省の協力のもと、作成した「中小企業の会計に関する基本要領(以降、「基本要領」と呼ぶ。)」、又は日本税理士会連合会、 日本公認会計士協会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会の4団体が、法務省、金融庁及び中小企業庁の協力のもと、 中小企業が計算関係書類を作成するに当たって拠るべき指針を明確化するために作成した「中小企業の会計に関する指針」(以降、「指針」と呼ぶ。)、 そして、会計監査人による会計監査が必要となる規模の法人については、日本の会計基準を設定する民間組織である企業会計基準委員会(以降、「ASBJ」と呼ぶ。)により取り纏められた 「金融商品に関する会計基準(以降、「金融商品会計基準」と呼ぶ。)」及び「金融商品に関する実務指針」(以降、「金融商品実務指針」と呼ぶ。) それぞれに定められている貸倒引当金の規定に従うことになります。
2.税法の貸倒引当金
貸倒引当金については、法人税法上に別途規定があるところ(法人税法52条)、課税所得の計算のために行われる引当金の計上は、
会計上の計上とはその目的を異にし、直接関連はしないため、税法において計上が求められることのみを理由として、会計上も引当金の計上が認められるというロジックにはなりません。
また、法人税法52条で規定される貸倒引当金については、その第1項で適用対象法人が次に掲げる内国法人(以降、「中小法人等」と呼ぶ。)とされている点で限定的なものとなります。
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普通法人(投資法人及び特定目的会社を除く。)のうち、資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下であるもの(次の1から4までに掲げる法人を除きます。)
又は資本若しくは出資を有しないもの(次の3および4に掲げる法人を除きます。)
1 大法人(次の(1)から(3)までに掲げる法人をいいます。)との間にその大法人による完全支配関係がある普通法人
(1) 資本金の額または出資金の額が5億円以上の法人
(2) 相互会社および外国相互会社
(3) 受託法人
2 普通法人との間に完全支配関係があるすべての大法人が有する株式(投資口を含みます。) および出資の全部をそのすべての大法人のうちいずれか一の法人が有するものとみなした場合において そのいずれか一の法人とその普通法人との間にそのいずれか一の法人による完全支配関係があることとなるときのその普通法人(上記1に掲げる法人を除きます。)
3 大通算法人
4 相互会社及び外国相互会社 - 公益法人等又は協同組合等
- 人格のない社団等
- 銀行法2条1項に規定する銀行
- 保険業法2条2項に規定する保険会社
- ④または⑤に準ずる政令で定める内国法人
- リース資産の対価の額に係る金銭債権を有する内国法人その他の金融に関する取引に係る金銭債権を有する内国法人(リース法人等)
次項以降、会計における貸倒引当金については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準である金融商品会計基準及び金融商品会計実務指針に基づいた貸倒引当金の内容を、 税務については法人税法に基づいた貸倒引当金についての内容を確認していきます。
3.一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づく貸倒引当金
(1)貸倒引当金の計上(金融商品会計基準14項、金融商品会計実務指針106~117項)
貸倒引当金の計上については、金融商品会計基準14項に以下のように定められています。
「受取手形、売掛金、貸付金その他の債権の貸借対照表価額は、取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。
ただし、債権を債権金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債権金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、
償却原価法に基づいて算定された価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額としなければならない。」
つまり、貸倒引当金とは、保有債権に対する貸倒見積高であることが分かるところ、 当該貸倒見積高の算定については、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて、 債権を3つに区分した上で、それぞれ算定方法が異なることになります。
① 一般債権
一般債権の貸倒見積高の算定における過去の貸倒実績率については、ある期における債権残高を分母として、当該債権の翌期以降における貸倒損失額を分子として算定し、
貸倒損失の過去のデータから貸倒実績率を算定する期間(算定期間)は、一般的には、債権の平均回収期間が妥当とされていますが、
平均的な回収期間が1年を下回る場合には1年を算定期間とします。
また、当期末に保有する債権に適用する貸倒実績率を算定するにあたっては、当期を含む過去2~3算定期間に係る貸倒実績率の平均値によるとされています。
金融商品会計実務指針に、債権の平均回収移管が3年の場合と債権の平均回収期間が1年未満の場合のケースに応じた設例が掲載されておりますので、 必要に応じて、ご確認頂ければと思います。
② 貸倒懸念債権
財務内容評価方法につき、一般事業会社においては、債務者の支払能力を判断する資料の入手が困難な場合も多いことから、貸倒懸念債権と認定した初年度は、 債権額から担保等による回収見込額を控除した残額の50%を引き当て、次年度以降に毎期見直す等の簡便法も認められています。
キャッシュ・フロー見積法につき、将来キャッシュ・フローの割引現在価値においては、入金可能と判断した時期と金額を反映した将来キャッシュ・フローの見積額を、
債権の発生当初の約定利子率または取得当初の実効利子率で割り引いて算定をします。
なお、実効利子率については、債権を債権金額と異なる価額で取得した場合において、当該差額が金利の調整のみではなく、信用リスクによって生じているとき、
当該信用リスクによる部分を将来キャッシュ・フローの合理的な見積りに反映した上で、当該見積キャッシュ・フロー合計額と取得原価が一致するような割引率となります。
金融商品会計実務指針には、キャッシュ・フロー見積法に基づく貸倒見積高の算定の設例が掲載されておりますので、 必要に応じて、ご確認頂ければと思います。
③ 破産更生債権等
破産更生債権等の貸倒見積額の考え方は、貸倒懸念債権における財務内容評価法による貸倒見積高と基本的に同じとなりますが、 債権額から担保等による回収見込額の控除後の残額を全て貸倒見積高とする点が異なります。
(2)貸倒引当金の取崩し(金融商品会計実務指針123~125項)
貸倒引当金は、引当の対象となる債権の回収可能性がほとんどないと判断されたことによる貸倒損失額の債権からの直接減額に際し、
当該貸倒損失額と対象債権に係る貸倒引当金残高のいずれか少ない金額まで貸倒引当金の取り崩しが行われます。
なお、貸倒引当金の繰入及び取崩しは、引当の対象となった債権の区分ごとに行われます。
また、当事業年度末における貸倒引当金のうち貸倒損失との相殺後の残額につき、繰入額が取崩額より大きい場合には、 差額を営業債権に係る部分については販売費及び一般管理費、営業外債権に係る部分については営業外費用にそれぞれ計上し、 繰入額が取崩額より小さい場合には、差額を営業債権に係る部分については販売費及び一般管理費より控除、 営業外債権に係る部分については営業外費用より控除するか又は営業外収益に計上することになります。
(3)表示と開示(財務諸表等の用語、様式及び作成に関する規則(以降、「財務諸表等規則」と呼ぶ。)20,34条、会社計算規則78条)
貸倒引当金は、貸借対照表において流動資産に係る貸倒引当金と固定資産(投資その他の資産)に係る貸倒引当金に区分し、原則として、 各資産科目別に控除(マイナス)科目として計上しますが、各資産科目に対する控除科目として一括して計上する方法と、 各資産の金額から直接控除し、控除した金額を科目別または一括して注記する方法が認められています。
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