ICSP 会計税務研究会

第1回 「理念とは?」

最終更新日:2025年11月6日

カテゴリ:戦略策定(マネジメントシェア)

本コラムの執筆を担当させて頂く、マネジメントシェア株式会社の帖地(ちょうち)と申します。

今回より「理念策定」に関するコラムの連載が始まります。
このコラムでは、事業や活動の「目的・目標・存在意義」といった言葉で表される、「理念」についてお伝えしていきます。

第1回目の今回は、理念策定に入る前の基本事項についてご紹介します。
なお、本稿の内容は筆者の私見によるものです。

1.イントロダクション

皆さんは、日々の業務に追われる中で、「私は今、何のためにこの仕事をしているんだろう?」と、ふと立ち止まって考えてしまうことはないでしょうか。
あるいは、「うちの会社は、一体どこに向かっているんだろう?」、「私の上司は、何を考えてこの指示を出しているんだろう?」と、組織の進む方向性に対して、漠然とした不安や疑問を抱いた経験はないでしょうか。

もし皆さんが職場のリーダーやマネージャーであれば、ご自身がそう感じるだけでなく、部下やメンバーの人たちは、さらに深刻な悩みを抱えているかもしれません。
(経営層の考えや会社の情報が伝わりにくく、得てして部下やメンバーの方がそういった状況に陥りやすいものです。)

こうした疑問や悩みがすぐに解消されれば良いのですが、悶々とした状態が続くと、仕事へのモチベーションが徐々に低下していきます。
やがて、「自分は仕事の目的も意味も分からないけれど、ただ黙々と働くしかないんだ」といった組織の“歯車感”や、言いようのない“虚無感”に陥ってしまうことさえあるかもしれません。

もちろん不確実な世の中ですし、「お金を稼ぐため」「生活の糧を得るため」というのは、仕事をする上でとても大事な目的であり、 仕事があること自体、非常にありがたいことであるのは間違いありません。

ですが、このためだけでは、少し寂しいと感じるかもしれませんし、長く続かないのではないかとも思います。

それに、もし金銭的な条件(お金のため)だけであれば、「この会社でなくても良い」「この仕事でなくても良い」という選択肢が、常につきまといます。

「なぜ、今の会社なのか?」「なぜ、この仕事なのか?」そして、自分たちは「何のために仕事をし、どこへ向かって行くのか?」

これらの問いに、組織としての、そして自分なりの答えを持つこと。
それが、モチベーション(エンゲージメント)や組織力(一体感・チームワーク)を高め、組織と個人が持続的に成長していくために必要ではないでしょうか。

そこで、このコラム連載では、「理念」すなわち、組織や仕事の「目的」、目指すべき「ゴール」、大切にする「価値観」といったものの意義や重要性を理解し、 それらを自分たちで策定するための手法をお伝えしていきたいと思います。

2.理念とは?

(図1)

第1回 「理念とは?」(マネジメントシェア)図1

理念の定義は、会社によって、また人によって様々です。
しかし、理念を定め、それを関係者と共有するためには、ある程度言葉の意味を揃えておく必要があります。
このコラムでは、次のような少し広い意味で進めていきます。

  • 事業や活動の目的
    →何のために、我々はこの事業を、この仕事を行っているのか。

  • 将来の目標(ゴール)
    →我々は、こういうことを目指している。

  • 拠り所となる価値観
    →こんなことを大事にしている、このことに皆が誇りを持っている。

  • 自身の存在意義(独自性)
    →世の中にこういう価値を提供している、他の会社とはここが違う。

  • 事業や活動への信念(熱い思い)
    →世の中のために、必ずこれを成し遂げる。

理念とは上記のようなもので、経営者だけでなく、社員皆が「このためにやっているんだ」と意気に燃えているものです。

そして、これらを徹底的に考え、その結論を「明文化」し、企業や組織の「最上位概念」とします。

■ 明文化
組織メンバーで共有していくには明文化が必要です。
暗黙のままだとなかなか浸透・共有が進みません。
やはり明確な言葉として定めておくことが大事です。
■ 最上位概念
最上位ですので、「みんなであれを目指そう」と旗を掲げます。
経営者一人が「私の言うことを聞け」というのではなく、「この目的のために皆で頑張ろう」と掲げるものです。

*理念については、パーパス(目的)、ミッション(使命)、ビジョン(将来像)、バリュー(価値観)、行動指針、社是・・・と関連する言葉が数多くありますが、 当コラムでは細かな使い分けは行わず、根幹(土台)となる考え方を「理念」という言葉で表現します。

3.理念の例

それではここで、理念の例を一つご紹介します。

(図2)

第1回 「理念とは?」(マネジメントシェア)図2

マースペットケアは、アメリカの食品会社「マース」の事業部門で、 ドッグフードの「ペディグリーチャム」やキャットフードの「(ねこ大好き)カルカン」などのペットフードを主に扱っています。

ここの理念が、「ペットにとってのより良い世界(A BETTER WORLD FOR PETS)」です。
飼い主の側ではなく、ペットの側に立っているのが興味深いと思い、取り上げました。

マースペットケアでは、この理念を定めるだけでなく、これを実現するための取り組みを行っています。
ペットフードからペットの健康に関わるもっと幅広い分野へと、事業領域を拡げました。
但し、やみくもにアプローチするのではなく、理念を事業展開の道しるべとして活用しています。

その一つが、ペット用の病院事業への進出です。
製品(ペットフード)の製造・販売から、サービス(医療)の提供へと踏み出すことは、全く新しいノウハウ(強み)や組織体制が必要となる思い切った決断です。
しかし彼らは、理念に則って決断し、行動(進出)しました。

理念を道しるべにするということは、たとえ他に儲かる事業があったとしても、ペットのためにならなければ行わないということです。
理念に合うかどうかで判断する。そういうアプローチです。

そして現在は、「スマート首輪」でペットの活動をモニターする事業にも進出しています。
この「スマート首輪」ですが、ペットの生体情報を取得することができるものです。
ペットの飼い主はペットの健康が気になりますので、生体情報を見て調子が悪いとなると、すぐに獣医に連携して診断や治療を受けることができるようにする。
そのようなことを目指しているんですね。

(筆者も昔、犬を飼っていましたが、散歩に連れて行くと紐を振り払って逃げてしまうことがよくありました。
そして、どこに行ったのか分からなくなり、つかまえるのに苦労しました。
車にひかれたりしないかヒヤヒヤと心配もしましたが、このスマート首輪にはGPSが入っていますので、すぐに居場所がわかります。
事故を減らすことができるでしょうし、ペットの安全にもつながります。)

いずれにせよ、「ペットにとってのより良い世界」の実現のために、事業活動が行われています。

この例のように、理念を定めた後は、その実現のために具体的な取り組みを行うことが大切です。
また、定めた理念について社内外に共有を図っていくことも非常に重要です。

4.本コラムの内容紹介

本コラムでは、主として以下の内容をご紹介する予定です。
なお、一部の内容については変更になる可能性がありますので、ご了承ください。

【各回のテーマ(予定)】

第1回 「理念とは?」(マネジメントシェア)図3

次回の紹介

次回は、皆さんによりイメージして頂きやすい、理念の2つ目の例と、理念の検証や再構築の必要性などについてお伝えしていきたいと思います。
次回もぜひご覧ください。

筆者プロフィール

帖地博幸

コンサルティング企業、IT企業、監査法人、学校法人にて、企業経営やITに関するコンサルティング及び研修業務に従事。
(経営基礎知識、論理的思考力、戦略策定、IT、管理会計などを主に担当。)
現在は主に、企業の理念と戦略の「共有」をテーマにコンサルティングや研修を行う。
マネジメントシェア株式会社代表取締役、中小企業診断士、理念と戦略の共有コンサルタント、後継者の軍師®

参考文献

  • 後継者塾テキスト「真の企業理念」
  • {後継者の軍師(一般社団法人軍師アカデミー)}

  • 軍師アカデミーテキスト「リーダーシップ」
  • {後継者の軍師(一般社団法人軍師アカデミー)}

  • 戦略シナリオ[思考と技術]
  • {株式会社東洋経済新報社}

  • DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2020年3月
    論文:「PUT PURPOSE AT THE CORE OF YOUR STRATEGY」
  • {齋藤嘉則著 株式会社ダイヤモンド社}

  • DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2020年10月
    論文:「BUILDING ONE AND ONLY BRAND THROUGH MISSION-DRIVEN MANAGEMENT」
  • {齋藤嘉則著 株式会社ダイヤモンド社}